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めいじかいか あんごとりもの
明治開化 安吾捕物
10 その九 覆面屋敷
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,820 字 · 54 页
光子は幼時からの習慣で、自発的にその奇怪さにこだわることはなかったが、一枝の呪文をきくと、まず思い当るのはそれであった。
彼女は毎日せつなかった。なぜなら、父母が文彦様とよぶのをきくと、ハッとせざるを得なくなったし、それは日常のことだからである。のみならず、街でよその父母がわが子を呼びすてにするのをきいても、顔があからむような、居たたまらぬ思いに駆りたてられるからであった。まして水彦が長子木々彦を呼びすてにするのをきけば、光子は卒倒しかけるかも知れないだろう。それほどこだわるようになった。
まるで天才とも言うべき風守をキチガイ扱いに座敷に閉じこめて、それが文彦に本家をつがせる父母の陰謀であるとすれば……イヤ、イヤ。そのような筈はない。文彦の生れる前から、風守は座敷牢に閉じこめられていたのである。村の風説によれば、風守が不治の病気であるために、その生母が自害したというではないか。それに、あの怖しい本家の祖父が、それを黙認しているのだ。父母の陰謀なら、あの怖しい祖父が同意を示す筈はない。祖父自身の意志でなければ、風守を座敷牢に入れることはできない筈ではないか。