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ひるのはなび

昼の花火

山川 方夫

「三田文学 第四七三巻第一号」三田文学会、1953(昭和28)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,030 字 · 15 页

青空文庫

レフトが塀際から返球する。観客は総立ちの熱狂ぶりだ。その底に石のように取り残され、彼は疼くように、固い一個の自分だけを感じていた。彼は、泳ぐような気持ちになった。

ひしめきあう人ごみの混雑のあいだを、がむしゃらに、盲めっぽうにかきわけ、突き進んでいるみたいな、行先も不明な、ただ人知れず自分を主張したい、そんな孤独な感情の動きだった。

打者は二塁にいる。女が拍手している。

「ねえ、よせよ。ヒット打ったのは、一塁側の選手なんだよ」

「……いけないの? ちがうの?」

「いけなかないけど、見てごらん、こっちは三塁側だろ? 誰も手をたたいてないだろ?」

「あら。ほんと」

笑いあって、だが、たぶん今日が、この女とみる花火の最後かもしれない、と彼は思った。いまに、目前の、この現実の細かな部分や出来事などはすっかり忘れ果てて、僕はきっと、すべてのこの季節の記憶を、一つの花火のそれとして眺めるのだ。

でも、僕の花火には、漆黒の夜の花床は無い。青春のその花床は、昼の光に充ちた青空が、それのはずではないか。

固い板の座席に、腰が痛んでいた。

坐り直しながら、彼は、頭上のひろびろとした青空を仰いだ。