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ばんしゅう
晩秋
山本 周五郎
「講談倶楽部」博文館、1945(昭和20)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,792 字 · 23 页
な怨嗟の的となっていたうえに、もし彼の秕政を指摘して起つような者があれば、主君の権威にかくれて仮借なくその役を逐い罪におとした。……都留の父、浜野新兵衛もその犠牲者のひとりだった。新兵衛はもと勘定役所に勤めていたが、主計の重税政策をみかねてしばしば上申書を呈出し、その肯かれざるを怒って城中にこれを刺そうとした。然し不幸にも邪魔がはいって失敗した、そして切腹を命ぜられて死んだのである。都留はそのとき十三歳だった、新兵衛は切腹する前夜、妻に向って、「これが男子なら己の遺志を継がせるのだが」と云い、「主計を討ちもらして死ぬのは残念だ」と、繰り返し述懐したという。……都留と母親とは、ひそかに老職の中村惣兵衛の家へひきとられた。母は一年まえに病死したが、そのとき都留に父の遺言を諄いほど云い聞かせ、「この品には母の心がこもっているから」と、ひとふりの懐剣を呉れた。その他にはなにも云わなかったけれど、もう十五歳になっていた都留には母の気持がよくわかった、そして母の心のこもっているその懐剣で、いつかは父の遺志を果そうと自分に誓ったのであった。
――相手は今お上の御不審のかかっている躯だから軽はずみなことをしてはならぬ。