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つきのまつやま

月の松山

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,451 字 · 41 页

青空文庫

孝也は前へよろけた、そこへもう一矢、腰骨の上のところへ射込まれ、孝也ががくっと膝をつくと、とび込んで来た大道寺が右の肩へ斬りつけた。

――弓だったか。

孝也はそう思いながら倒れた。大道寺の二の太刀をよけようとして、本能的に振向くと躯がぐらっと仰向きになり、胸と腹とで(射込まれた)矢が内臓を突き破った。孝也は苦痛のあまり息が詰り、眼が昏んだ。馬蹄の音と、大勢の喚く声が聞え、誰かが脇へ来て、ひきつった調子で孝也の名を呼んだ。

「西秋だな、早すぎた」孝也は云った、「あいつ、約束をやぶったな」

孝也は眼をあいた。西秋泰二郎の顔が眼の前にあった。泰二郎の頭の横に、高い空の白い月が見えた。

「私がむりに訊きだしたのです」と泰二郎が云った、「すぐに庄司や益島たちと馬で駆けつけたのですが、ひと足おそかった、宗城さん、貴方はどうしてこんなことをしてくれたんですか」

「おちつけ」と孝也が云った、「大道寺らはどうした」

「彼は仕止めたが、ほかの者は逃げました」

「二人だけで話したい」

孝也は喘いで、右手をゆらっと振った。泰二郎は振返った、そこには益島弁三郎、宮原忠兵衛、庄司勇之助たちと、ほかに上位の門人が五人(みんな武装して)立っていた。