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あさがおぞうし

朝顔草紙

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1938(昭和13)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,019 字 · 29 页

青空文庫

「従姉は……仕合せ者でございますわ」

小雪は袂を顔に押当てた。そして耐えがたい嗚咽に、暫し肩を顫わせていたが、やがて静かに涙を押拭って、

「泣いたりして、御免遊ばせ」「拙者こそ悪いことを申しました。ただ、文絵どのと御姉妹のように育って来られたと伺ったので、誰にも云うことの出来ぬ愚痴を、つい聞いて頂きたくなったのです」

「……従姉上さまが聞いたら、――さぞ……」

消えるように云って、又しても溢れてくる涙を隠そうとしてか、小雪は軽く咳きながら外向いた、信太郎も暫くは黙って、そのままじっと膝の上を覓めていたが、やがて気を変えるように云った。

「失礼なお訊ねですが、さきほどのお琴は貴女がお弾きになったのですね」「……お恥しゅう存じます」「たしか朝顔の曲だと思いましたが」「はい」

小雪は頷いて「亡き従姉上がお好きで、あの曲を弾くと毎も……貴方さまのことが想われる、と申して居りました。――涙ばかりや残るらん……という唄の意をそのまま自分の身にひきくらべていたのでございましょう、あの曲を弾いては、よく泣いて居りました」

朝の眼覚めに、それを聞いて自分の悲しさを歌われると思ったのは信太郎だけではなかった。