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あさがおぞうし

朝顔草紙

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1938(昭和13)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,019 字 · 29 页

青空文庫

信太郎は手向う者なしと見て、つかつかと駕籠の側へ近づき、倒れているのへのしかかるようにしながら、

「采女――采女!」と呼びかけて、ぐいと引戸を明けた、その刹那である、覗きかかる信太郎の喉元を狙って、駕籠の中からさっと短剣を突上げて来た。危い一撃、実に危い一撃だった。

「あ!」と一髪の差で身を捻る、突出して来た腕をひっ掴んで、ぐぐっと絞りながら、

「うん、さすがに一国を毒する奸物だけあるな、その重傷でよく最期の一刀が用いられた、褒めてやるぞ」「な、名乗れ、何者だ!」「十五年以前、貴様のために退国した安倍信右衛門の一子、信太郎正邦だ」「あ、安倍……」

愕然と呻くやつを、引起すようにして、差添を抜きざま一刀、胸元深く刺す、――もう一刀。――止めを刺して振返ると、走って来る人の足音、信太郎は駕籠へ例の槍を立掛けて置いて足早に闇の中を立去った。

同じ頃、同じ烈風を聞きながら。

建部監物は自分の居間で、宵のうちから何通かの手簡を書いていたが、やがてそれも終ったらしく、最後の上封へ、

――遺言状。と認めて筆を擱いた。

御槍奉行の柴野靱負が闇討ちに遭った時、すでに監物は我が事畢んぬと思った。