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さくらのみのじゅくするとき

桜の実の熟する時

島崎 藤村

「文章世界」1913(大正2)年1~2月、1914(大正3)年5月~1918(大正7)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,569 字 · 222 页

青空文庫

そういう友達はもとより盃なぞを手にしたことも無い人だ。言い出した捨吉はまた、何程誂えて可いかということもよく分らなかった。一合の酒でも二人には多過ぎると思われた。

捨吉は手を揉んで、

「じゃ、まあ、五勺にしとこう」

この捨吉の「五勺にしとこう」がそこに居る姉さんばかりでなく、帳場の方に居るものまでも笑わせた。

五勺誂えた客は簡単に飲食されるものがそこへ運ばれて来るのを待った。

「青木君も君、交際って見るとなかなか面白い人だろう」と捨吉は青木の噂をして、「この前、僕が訪ねて行った時は女の人も来ていてね、三人であのお寺の裏の方の広い墓地へ行って話した。その女の人は結婚の話の相談にでも来ていたらしい。断ろうか、断るまいか、という容子をしてね。古い苔の生えた墓石に腰を掛けて、じっと考え込んでいたあの女の人の容子が、まだ眼についてるようだ……一体、青木君には物に関わないようなところが有るね。あそこが僕等は面白いと思うんだけれども……」

「とにかく、変ってるね」

「あそこが面白いじゃないか。奇人という風に世の中から見られるのは可哀そうだ。誰かそんな評をしたと見えて、青木君がしきりに気にしていたっけ――『僕も奇人とは言われたくない』