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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
結局、話が人間ということになっては、私の屁理窟やおしゃべりはもう及びもつかない。とにかく私は予定通り、土の中から生れて来た小さな話を書きたしておこう。
昔々あるところに(紀州名草郡桜村などという人がある)物部麿という百姓があった。ほかにとりたてて悪いところはないのだけれども、酒が好きだ。それから、女が好きだ。そして、あんまり働くことが好きでない。そのうちに、よその後家で桜大娘という女の子と懇になり、相思相愛で、婚礼をあげようということになったが、何がさて麿は怠け者で余分のたくわえがないから酒が買えない。せっかくの婚礼だからせめて酒でも村の連中にふるまいたいがあいにくで、と女にそれとなくもちかけたのは、女は後家でいくらか握っているだろうという考えからだが、それは困ったねえ、でも、いいことがあるよ、隣の三上村の薬王寺では飲みきれないほど酒があるということだから借りておいでな。なに、働いて、あとで返せばいいのだから。なるほど、お寺なら慈悲があるから頼めば貸してくれるだろう、と早速でかけてかけあってみると、よかろう、その代り利息は倍にして返すのだよ、と二斗の酒をかしてくれた。