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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
とどこおりなく婚礼がすんだが、麿の働きでは二斗の酒が返せない。お寺から催促のたびになんとかごまかして年月を経ているうちに病気になって寝こんでしまった。このへんで医者といえば薬王寺の坊主の薬のやっかいにならねばならぬから、女房がでかけて行って頼みこんで坊さんに往診して貰う。坊さんが来てみると、ひどい重病で、とても助かる見込みがない。今日か明日かという容態であった。
「これはとても駄目だ。もう薬をあげたところで、どうなるものでもない。定命は仕方のないものだから、心静かに往生をとげるがよい。それに就ては、お前さんの婚礼に二斗のお酒が貸してあったが、あれを返さずに死なれては困る。さればといって、見廻したところお前さんのところにはカタにとるような品物もないが、それでは仕方がないから、死んでから牛に生れ変っておいで」
「なんで牛に生れなければなりませんか」
「それは申すまでもない。この容態ではとてもこの世で酒が返せないのだから、牛に生れ変ってきて、八年間働かねばなりませんぞ。それはちゃんとお釈迦様が経文に説いておいでになることで、物をかりて返せないうちに死ぬ時は、牛に生れてきて八年間働かねばならぬと申されてある」