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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
03 第三部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页
「私が証人だという意味を聞かせてくれ」
「自分でわかる筈だ」
「そこもとの口から聞きたい」
「頭の悪いやつだ」と七十郎は振返って云った、「おまえは自分でしたことがなんであったか、もうとっくに感づいているだろう、坂本たち四人を斬ったことも、兵部邸の外で浪人者を斬ろうとしたことも、――それが忠誠のためではなく、兵部宗勝その人のためであり、自分は単に煽動され利用されたにすぎない、ということを、おまえ自身とっくに感づいている筈だ、そうではないか」
「なぜ私が感づいていると思うのか」
「そこまで自分をばかにするな」と七十郎が云った、「感づいていなければおれを斬る筈だ、もちろん、おれは斬られはしないがね、しかしおまえが刀を抜けなかったのは、おれの云ったことに思い当るふしがあったからだ、もっと詳しく聞きたいか」
「もう充分だ、また会おう」
「たくさんだ、会う必要はない」
「いや会おう」と七兵衛は云った、「そこもとの思案は聞いた、私には私の思案がある、こんど会ったときには、私の思案を聞いてもらおう」
「たくさんだ、おれにはそんな暇はない」
そして七十郎は手を振った。宿の者の佐平と共に二人は去り、七十郎は伊助という若者と、そこに残った。