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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

――そうだ、あの眼だ。

と新八は心のなかで呟いた。

――おれはあの眼が怖い、あれはおれの性根を見ぬいている眼だ、おれがどんなに腐っているか、どんなに堕落した人間かということを、底まで見やぶっている眼だ。

新八は呻き声をあげた。

「どうしたのさ、聞いてるの」と女が新八をゆすった、「ごまかしてもだめだよ、あんたのやりかたは箔が剥げちゃったんだもの、教えられたことは知ってても、そのとおりに繰り返すだけじゃないのさ、だから初めにはびっくらしたけれど、四たび五たびとなるとこっちが却ってじれったくなるよ、今夜なんかじれったいだけだよ、ねえ、ほんとに年は幾つなの、二十まえでしょ」

「少し黙れ、少し黙ってくれ」

「あたしが当ててやる、十九かな、十八かな、きっと十八だよ」

女は手と足で絡みつき、のしかかろうとした。新八は女を押しのけて、乱暴に起き直った。

「うるさくすると帰るぞ」

「帰すもんかさ」

新八は立ちあがった。

女もはね起きて、彼を羽交い絞めにした。帯をしめていないので、寝衣がはだけ、肥えた、肉の厚い、女の躯があらわになった。よせ、本当に殴るぞ、と新八が云い、「殴ってよ、殴んなさい、殴らないのかさ」