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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
03 第三部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页
あっという声と、「いたぞ」という叫びが起こり、新八は草むらの中を走った。木戸口にいた二人がこちらへ走って来、新八は逆に木戸のほうへ走った。
「そこだ、そっちへゆくぞ」という叫び声や、「待て、逃げてもむだだぞ」という声が新八の耳を打った。
――あさましい、あさましい。
新八はそう思いながら、狂ったように草むらからとびだし、そして、木戸口に立っている男を見ると、前後のふんべつもなく、「助けて下さい」と云いながら、その男のうしろへ走りこんだ。
「助けて下さい、無実の罪で追われているのです、頼みます」頼みますと云って、喘ぎながら、男の袖につかまった。
男は二人いて、一人が提灯を持ち、新八のようすを見た。そこへ追手の者が四人、走りよって来た。新八は提灯を持っている男を見て声をあげた。
「貴方は、矢崎さんですね」
男は新八を見た。
追手の四人がそこへ来て、その男ですと指さし、「おい、神妙にしろ」と云った。新八は哀願するように、貴方は原田さまの矢崎さんでしょう、と云った。
「私は矢崎舎人だが」と相手が云った。
「宮本新八です、お忘れかもしれませんが」と新八はけんめいに云った、「万治三年の大変のときに殺された、いや、上意討になった、宮本又市の弟です」