轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

その言葉はいかにも丹三郎らしい。自分で毒見役を志願したときから、彼は死ぬ覚悟をきめていた。その「覚悟」はひと筋で紛れもなく、動かすことのできないものであった。しかも、彼は死ぬだけでは満足せず、魂となってなお主家を護ろうという。

――たくさんだ、丹三郎。

と甲斐は心のなかで彼に呼びかけた。

――おまえは侍の本分をはたした、もういい、それ以上は執念だ、もう休むがいい、生きているうちにそのつとめをはたしたら、あとはゆっくり休むほうがいい。

するとたつ女が「あ」と声をあげた。

死躰の唇の端から、どす黒くなった血がひと条、頬を伝って流れおちたのである。甲斐は心のなかで、よし、と云いながら、懐紙を出して、きれいにそれを拭き取ってやった。

――それでよし、いまの血で執念は出てしまった、これでゆっくり休めるだろう、丹三郎、ながいこと大儀であった。

たつ女が嗚咽し始めた。

やがて甲斐は向き直って、丹三郎が「犬死」になることを告げた。鬼役が毒死したのだから、本来なら忠死であって、もちろん褒賞もされ、その名も青史に残るであろうが、いまそれができないという事情を述べ、まことに耐え難いが、単に食中毒という発表をしなければならない。