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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

その点を了解してくれるように、と頼んだ。たつ女は、承知していますとおちついて答えた。

「丹三郎もそう申しておりましたし、そう致さなければならない、ということもわかっております」とたつ女は云った、「世間にはどう伝えられましょうとも、自分の死ぬことに少しでも意義があり、多少でもお役に立ったと、知って下さる方があれば満足です、丹三郎はそう申しておりました」

甲斐は無表情に頷いた。

ではそのことを忘れないように、と云って、甲斐もまもなく立ちあがった。たつ女に送られて出ると、玄関には村山喜兵衛が待っており、喜兵衛はすぐに提灯へ火を入れた。別れを告げて外へ出ると、空はかすかに明るみはじめてい、なまぬるい南風が吹いていた。

その日、早朝の老臣評定で、「置毒」の事実は否定された。河野父子三人は、奥女中らとしばしば宴遊し、風紀を紊した、という理由で死罪。老女鳥羽は、「奥向きの取締りを怠った」ということで、切米二十両十人扶持を付けて大条玄蕃へ預け。三人の鬼役は食中毒の死ではあるが、「出仕ちゅうの出来事」として遺族に弔慰を賜わった。――河野道円の妻と娘は茂庭周防の館、松山へ永の預けとなり、また、斬罪になった料理人のことは不問に付され、その遺族は手当を与えられて追放の処分を受けた。