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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
03 第三部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页
「それはまたどうして」
「石川が丸屋の主人と知りあったらしい、そのいきさつはいずれ石川が話すだろうが、肝心なことはその道場の稽古だ」と内記は云った、「藤沢はむろん刀法を教えているが、石川のほうはやわらというのを教える」
「やわらだって」と砂山が訊いた。
内記はそうだと頷いた、「磯貝なにがし、三浦なにがしという者が、明国人から伝えられたのを、さらにくふうしたのだそうだが」
「ああ、それなら聞いたことがあった」
「こちらの小具足を、もっと精妙にした武術、といってもいいだろう、徒手空拳で敵を倒すのだが、その稽古を見ただけでも、おれは無類だと思った」
「しかし」と砂山がまた訊いた、「石川は片腕ではないのか」
「片腕だ、あのとき打ち折られた右手は、治療ができないので、肩の下から切ってしまったということだ」
「その片腕でそんな武術がやれるのか」
「やれるんだ」と内記は頷いた、「片腕だから完全に教授はできないだろう、いま門人を二人、三浦与次右衛門という師範の道場へかよわせていて、やがてはそれに代稽古をさせるのだというが、石川自身はべつに目的があって、自分だけのくふうをしているようだ」