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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

「べつに目的がある」と島田が訝しそうに訊いた。

「わかった、わかったよ」と砂山忠之進が云った、「柿崎に復讐するつもりだ、この春さきだったか、石川は向島でみやどのを誘拐しようとしたことがある、宮本新八がそう話していたではないか」

「そうだ、石川は復讐するつもりなんだ」と尾田内記が云った、「そして、おれは石川のくふうを見た、勝負のことはわからないが、彼の隻手の術はすさまじい、瓦十枚を手刀で破るし、二本の指で四分板五枚を突きやぶる、それから、五寸釘を拳で板へ打ちこんでみせた」

「力ではないな」

「力ではない術だ、そのうえやわらは躰さばきが敏捷で、刀法とはまったく進退動作が違う、確言はできないが、おれの眼で見たとこだと、彼はたぶん柿崎に勝つだろう、十中八九まで勝つだろうと思う」

野中又五郎が初めて、話しというのはそのことか、と訊いた。

「いや、これからだ」と内記は野中を見た。

藤沢と石川が、そこもとたちも柿崎道場を出て、こっちへいっしょにならないかとすすめた。かれらの道場はやわらが好評で、門人も殖えるばかりだし、将来のみとおしも確実である。みんなが来てくれれば、丸屋伝右衛門から資金を出させて、新らしく道場を建てるつもりだ、と云ったそうで、いま藤沢と石川が表てまで来ている、と内記は囁いた。