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きみつのみわく

機密の魅惑

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,394 字 · 37 页

青空文庫

某夫人では余りに漠然としてしまいますから。

私は電報を受取った夕方にはもう出発いたして居りました。かの地に着きますと宮城野夫人のお住居へ馳けつける前に、まず市内のあるホテルへ室をとりました。そのホテルは日本人経営のもので、土地の事情を知るには一番便利だからと紹介状まで貰って行ったのでございます。

私は夫人がもっと早く電報をよこすだろうと思っていたのです。というのはどういう事件が起ったかを知っていましたからです。それは十日ほど前に例の妖婦笹屋の有喜子が何者かに殺害されたのです。しかも場所が宮城野夫人の邸の附近の往来だったので、それでなくても評判の悪い矢先ですから、とんだかかりあいにでもなるといけない、困ったことが出来たと人知れず心を痛めて居りました。何故なら有喜子は夫人の夫と関係のある女でしたから。

それで私がホテルに室をとった理由もお分りになりましょう。在留民間では彼女をどういう風に見ているかを知りたかったのです。ただ評判が悪いというだけの夫人の手紙では、はっきりしたことがわかりません。何故そんなに評判が悪いのか本当の処をよく調べてみなければならないと思いました。