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きみつのみわく
機密の魅惑
大倉 燁子
「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,394 字 · 37 页
『否え、主人は私が退けば必ずあの女を妻に迎えたろうと思いますわ』
『仮にそうだったとしても、あの女は死んじまったから、もうその問題は消えたわけじゃありません?』
『その問題は消えても、他の事で私を苦しめているじゃありませんか。殺人嫌疑をかけさせるなんて、死んでからまでまだ私に仇をしようとしているんですわ。しかしその事は何と疑われたって私は平気ですが――』
宮城野夫人は急に眉を深く寄せ、声をひそめて云うのでした。
『そんな事はどうだって構わない。今、実はもっと重大な問題に悩まされているんですの、あなたにいらして頂いたのもそのためなんですわ』
『殺人事件よりも重大?』
『大変な事なんですの。私達にとってはね』
夫人は他聞を憚るからと云って、寝室に続いた彼女の居間に私を案内いたしました。そこは小じんまりとしていて畳が敷いてあり、日本風に飾りつけてありましたが、聞けばその部屋は私のために空けておいてくれたのだそうです。
ふっくらした紫縮緬の坐蒲団の上に座ると急に寛いだようないい気分になって、落ついて話が出来るように思いました。薄暗い大きな応接室で見た時よりも、夫人の顔もいくらか明るく見えました。