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きみつのみわく

機密の魅惑

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,394 字 · 37 页

青空文庫

おまけに着ている洋服の色が、うす白いのです、昼間見たら鼠色か何かなのでしょう。

私は見えがくれに後を尾けて行きました。横町を曲る時街灯の光りで男の顔を見て、私の想像していた通りだったので別に驚きもしませんでしたけれども、とにかく追いすがって声をかけました。

『白石さん、書記生さん』

吃驚して彼はハッと立ちすくみました。私の姿を見た瞬間、無意識に彼は逃げ出そうとしてまた思い返したらしく静かに立ち止まりましたが、その大きく見開いた眼からは狼狽の色がありありと読まれました。

『何か御用でしょうか?』

落ち着いている積りでしょうが、彼の声は震えて居りました。

『少しお訊きしたい事があるんですけれど往来じゃお話も出来ません。とにかく領事館へ参りましょう』

時計を見ると午前一時です。こんな時間に私のホテルへ同道するわけにもまいりませんし、話を他人に聞かれる危険を避けるためには、やはり領事の館舎内でも撰ぶより仕方がありませんでした。

私は白石書記生と相対して坐りました。肉の落ちた頬は痙攣して引きつり、両手は震え、落ち着きのない不安な眼で、絶えず四辺に気を配っている容子は、迚も痛ましくて正視するに忍びませんでした。