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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页
意義と理性とによって、その不自然を出来るだけ自然に近づけて行くことを知らない女性において、とりわけその危険が多いのだ。それは、お民と本田のお祖母さんとにおいて、すでに十分証明されたことではなかったか。まして、お芳は、もともと不自然な、しかも、ゆさぶってみるにはまだあまりに早すぎる接穂でしかなかったのである。次郎に、かつての里子の経験が、再び新しい形ではじまろうとしていたとしても、それは「あるまじきことだ」とばかりは、必ずしも言えなかったのではあるまいか。
事実を語ろう。
次郎は、入学試験後、正木に来てから約一ヵ月ぶりで、土曜から日曜にかけて、はじめて本田の家に帰って行った。その日、彼は、お芳にもらった靴をわざわざ履いて行くことにしたが、靴はまだ十分に新しかった。小学校では、ふだん靴を用いることになっていなかったので、彼はその日はじめてそれを履いたようなものだったのである。
恭一や、俊三や、お祖母さんの顔にまじって彼を迎えたお芳の顔には、相変らず大きなえくぼがあった。べつだん、飛びつくように彼を迎えるふうはなかったが、正木にいっしょにいたころのお芳を知っていた次郎には、そのえくぼだけで十分だった。