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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页

青空文庫

次郎は、それから夢中になって鍋のものを口に運んだ。俊亮と恭一とが、かわるがわる、「もうここいらが煮えているよ」と言って、肉や葱を彼の前に押しやってくれるので、彼はほとんど箸を休める必要がなかった。お祖母さんがどんな眼をして彼を見ていたかも、俊三が鍋のなかのものをとるのに、どんなふうにお芳に世話をやいてもらっていたかも、彼はまるで知らないでいるかのようであった。しかし、食慾が満たされるにつれ、そして、鋤焼というものの刺戟が、次第にその新鮮味を失ってくるにつれ、彼の注意も、そろそろと周囲の様子にひかれて行った。

「母さん、僕、豆腐はいやだい。」

「ああ、そう、じゃあそれ母さんの皿にうつしてちょうだい。もうじき肉が煮えるから、待っててね。」

俊三とお芳との言葉が、ます次郎の耳を刺戟した。しかし、なお一層彼の注意をひいたのは俊亮と俊三とのつぎの対話だった。

「俊三、お前母さんに甘ったれてばかりいるね。」

「甘ったれてなんかいないよ。」

「だってそう見えるぞ。」

「馬鹿にしてらあ。」

「じゃあ、今夜は次郎が母さんのそばに寝るんだが、いいかね。」

「そんなの、ないよ。」

「どうして?」