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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页
「もう、よせ! もうこのくらいでいいんだ。」
山犬の声に似たどら声がきこえて、彼の周囲が急に明るくなったと思った時には、彼は地べたに横向きにころがっていた。彼の顔のまんまえには、ペンキのはげた指揮台が、二つ三つ節穴を見せて立っていた。
彼は、じっと耳をすました。
「馬鹿な奴だ。」
そんな声がどこからかきこえた。
彼は、その声をきくと、無意識に起きあがった。そして、くるりと向きをかえて新入生の方を見た。彼はもうすっかり落ちついていた。新入生たちは、みんな青い、おびえきったような顔をして、彼を見ていた。その青い顔の両側に、五年生たちが、にやにや笑って立っているのが、はっきり見えた。
次郎は、その光景を見ると、これからどうしたものかと考えた。もとの位置に帰る気には、とてもなれなかった。かといって、いつまでもそのまま立っているわけには、なおさらいかない。彼は、しばらく、じろじろと周囲を見まわしていたが、ふと目のまえに、ふみにじられたようになってころがっている帽子が眼についた。それは、彼がついこないだ父に買ってもらったばかりの、そして、きのうはじめて、組主任の先生に渡された新しい徽章をつけたばかりの、彼の制帽だった。