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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页
そして、時には、寝床にはいってから、自分で歌を考え、そっと起きあがって、それを手帳に書きつけたりすることもあった。
恭一は、もうその頃には、詩や歌をかなり多く作っており、年二回発行される校友会誌には、きまって何かを発表していた。次郎には、それが世にもすばらしいことのように思えた。そのために、彼の恭一に対する敬愛の念は、これまでとはちがった意味で深まって行った。が、同時に、彼が、何かしら、恭一に対して妬ましさを感じはじめたことも、たしかだった。
(今に、僕だって、……)
彼は校友会誌に目をさらしながら、おりおり心の中でそうつぶやいた。彼が幼い頃恭一に対して抱いていた競争意識は、こうして、知らず織らずの間に、形をかえて再び芽を吹きはじめているらしかった。
次郎と詩、――読者の中には、この取合わせを多少滑稽だと感じる人があるかも知れない。なるほど、次郎は、詩を解するには、これまで、あまりにも武勇伝的であり、作為的であったといえるだろう。
だが聰明な読者ならば、彼のそうした行為の裏に、いつも一脈の哀愁が流れていたことを決して見逃がさなかったはずだ。実際、哀愁は、次郎にとって、過去十五年間、切っても切れない道づれであったとも言えるのである。