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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页

青空文庫

今は坊ちゃんお一人だったから、すぐわかりましたけれど。」

お浜はそう言って、うしろをふり向いた。

「坊ちゃん、あの子、誰だかおわかり?」

次郎はうなずいた。彼は、お浜のうしろに立っている少女がお鶴であることが、もう、さっきからわかっていたのである。

お鶴は、ややうつむき加減に、左頬を見せていた。白いものを少し塗っているので、以前ほどに眼立たなかったが、お玉杓子に似たあざは、やはり、もとのままだった。

「あの子も大きくなったでしょう。今日は、今から二人でお宅にお伺いしますわ。……坊ちゃんは何時ごろお帰り?」

「二時までだけれど、剣道だから、ちょっとおそくなるよ。」

「でも、三時頃には、お宅にお帰りになれるでしょう。あたしも、ちょっと買物をしますから、たいてい、ごいっしょごろになりますわ。お宅でゆっくり話しましょうね。」

「僕、なるだけ早く帰るよ。」

次郎は、そう言って、柵をはなれながら、ちらっとお鶴の方に眼をやった。お鶴も、その瞬間、まともに彼の方を見た。

二人は、視線がぶつかると、あわてたように下を向いた。

次郎は、すぐ教室の方に、帰りかけたが、途中でもう一度立ちどまって、柵の隙間を縫って行く赤い日傘を見おくった。