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すいちゅうのきゅうでん
水中の宮殿
野村 胡堂
「少女倶楽部」1934(昭和9)年6月〜8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,533 字 · 52 页
「え、潜水夫のおかみさんと二人で、すっかり小屋をかたづけておきましたよ」
書生の花井一郎は、綾子から鞄を受取って、雇っておいた自動車に乗せました。
「三人泊れるかしら」
「去年まで七人も泊っていましたよ」
立花博士に信用されて、平泉館発掘の事務所を預っているだけに、花井一郎は若いにしては、なんとなく頼もしい男でした。
「なんか変った事はない?」
「なんにもありませんよ。北上川の堤防はそのままだし、銅板の絵図面は相変らずどこへ行ったかわからないし、――仕方がないからお高さんと二人で、仕事を始めるのを待っているんです。――僕はいつまでここにいても驚きませんよ。退屈なんかするものですか、勉強にはこんなよい場所はないですからね」
花井はこんな事を言っております。来年あたり専検の試験を取るんだと言っている花井には、こんなよい勉強場所はなかったでしょう。
間もなく一同は、判官館の下、木立の中に隠れん坊をするように建てた、発掘事務所の小屋に着きました。
「まア、まア、お嬢様」
そう言って迎えてくれた中年の夫人は、昨年猫間ヶ淵で死んだ潜水夫の配偶で、お高さんという――、白い割烹着に、引詰めた束髪といった、思いの外東京風の女です。