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すいちゅうのきゅうでん

水中の宮殿

野村 胡堂

「少女倶楽部」1934(昭和9)年6月〜8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,533 字 · 52 页

青空文庫

牛込の邸には、博士が死んでから、世間の迫害に驚いて、雇人は住み付きませんが、それでも、正平爺やの外に、博士の助手をしていた滝山達郎と、その妻の三枝子が住んでいるので、綾子がいなかったところで、なんの差支もありません。

綾子はその日の夕方、鎌倉の翠川家の別荘に着きました。主人は有名な実業家ですが、長男の健一は水泳の選手で、十八歳になったばかりですが、幾つかの日本選手権を持っているほどの快青年、妹の燿子は、綾子の学校友達で、綾子より一つ上の十五、これは五月の陽のような朗かで、採りたてのトマトのような新鮮な感じのする少女でした。

翠川一家――健一も燿子も、立花博士の平泉館発掘の事には一言も触れないようにして、毎日、毎日、唯もう面白く遊びました。

由比が浜の泳、鎌倉山の遠足、或時は八幡様へ、或時は七里が浜へ、勉強も運動も精一杯するといった生活が、十日ばかりの間に綾子をどんなに快活にしたことでしょう。

この生活が一箇月続いたら、綾子の健康も気持も、すっかり変ってしまうのではあるまいか――と翠川一家の人達が言っていたのも無理のない事でした。健一と燿子は、健康と快活とを撒き散らして歩く、二人の妖精みたようなものだったのです。