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すいちゅうのきゅうでん

水中の宮殿

野村 胡堂

「少女倶楽部」1934(昭和9)年6月〜8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,533 字 · 52 页

青空文庫

兄の肩に犇とすがりついて次第に増して行く隧道の中の水嵩ばかり気にしております。

「燿ちゃん、そんなに心配しちゃいけない、僕がついてるじゃないか」

健一は隆々たる肩を聳やかして、こう強く言い切りました。日本の選手権を幾つか持っている水の大選手翠川健一は、こんな時はどんな大人物よりも頼みになる少年だったのです。

三人は激流に押され気味に、なお二十メートルばかり進みました。その間に幾度も足をさらわれて、水の中に横倒しになったり、恐しく深い穴に落ちて、危く水を呑みそうになったかわかりません。

何より困ったことは、トンネルの中の水は次第に増して、顔を出しているのが精一杯な上、空気が次第に悪くなることでした。入って来る水の勢いは少しも衰えないのですから、このまままごまごしていると、三十分経たないうちに、三人共窒息するか溺れるか、兎に角命の助かりようは無いでしょう。

「もう一歩も進まれない、隧道一杯の水だ」

健一は思わずこう言ってしまいました。頭が隧道の天井に支えているのに、水はもう顎を越して口へ入ろうとしているのです。

「お兄様」

「引返すか、別の道を捜すんだ」

健一は思い切りよく踵を返しました。