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すいちゅうのきゅうでん

水中の宮殿

野村 胡堂

「少女倶楽部」1934(昭和9)年6月〜8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,533 字 · 52 页

青空文庫

「…………」

健一は黙って挨拶して、この古風な頬髭を持った実業家の向うへ腰をおろしました。

青葉を吹く窓の風、外は海底のような深い緑で申分なく爽やかな小屋ですが、部屋の中は何となく鬱陶しい空気が、古沼のようによどんでおります。

「ところで、立花博士亡き後は、半分出資した私がこの事業の継承者じゃ、早速引渡して貰いたい、序に、近頃手に入ったという、銅板の絵図面も、当然の権利として、私が申し受けますぞ」

唐崎荘之介は高飛車でした。相手を少年と見て、一挙に物事をかたづけようと思ったのでしょう。

「私は法律上のことは知りませんが、立花博士が亡くなれば、事業は当然相続者の綾子さんが継がれる筈です。綾子さんの後見人は、いずれそのうちにきまるでしょう、――不服があったら、どうぞ顧問弁護士とお掛合い下さい、そんなことで銅板もお引渡し出来ません」

健一もなかなか負けてはいません、水の覇者と言われた大選手は、向息もなかなか強かったのです。

「そんな馬鹿なことは無い、この事業は一体誰が金を出して継続しているんだ。私へ断りなしに」

「私の父です、――翠川健太郎です、新たに出資して、綾子さんを助けているのです、株式会社でも何でもないのですから、出資も、事業の継続も自由な筈だと聞いております」