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みとばいふ

水戸梅譜

山本 周五郎

「芸能文化」1942(昭和17)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,607 字 · 25 页

青空文庫

両の頬が濡れていた。かれはじっと光圀をふり仰いでいたが、やがてぬきさしならずと悟ったのであろう、

「申上げます」と呻くように云った、「母の命にはかえられません、なにもかも言上つかまつります。……わたくしの父は、奥州のさる藩士でございました、主家ご改易にて浪人となり、すぐ御当地へまいりましたが、それは……水戸お館さまこそ子々孫々まで御奉公つかまつるべきおん方と、かたく、かたくお頼み申したゆえでございました」

はたしてそうだった、あのとき出来るかぎりの力をつくして捜したが、ついにみつけだすことのできなかったあの浪人の遺族だった、光圀はそう思ってわれ知らず膝をすすめた。

「御当地にはゆかりびともなく」と五郎兵衛はつづけた、「せんかたなく父は案内なしにお館へ伺候つかまつりました、十六年まえの秋のことでございます、家を出ますときに母とわたくしを呼んで、父はかように申しました、……自分はこれからお館へ伺候をする、めでたく仕官がかなえばよし、かなわぬ時にはお庭の内を拝借して自害する覚悟だ、暮六つの鐘が鳴っても帰宅しなかったらお庭の土になったと思うがよい、しかし、そのときは、暮六つを合図にそのほうが父に代って水戸さま御家臣になるのだ、お館の土には父の血がしみこんでおる、この土が五百旗家の代々御奉公つかまつるべきところだ、忘れる