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どろぼうとわかとの

泥棒と若殿

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 页

青空文庫

それからとつぜん「ひょう」というような奇声をあげてとびのいた。

「だ、誰だ、――なんだ」

男はこう叫びながら、及び腰になってこちらを覗いた。成信は黙っていた、仰向けに寝たまま身動きもしない、――男は迷って、逃げようかどうしようかと考え、そのあげくやっと決心したのだろう、やおら片手の出刃庖丁を持ちなおし、それを前方へつき出してどなった。

「やい起きろ、金を出せ、起きて来い野郎」

「――――」

「金を出せってんだ、おとなしく有り金を出しあよし四の五のぬかすと唯あおかねえ、どてっ腹へこいつをおんめえ申すぞ」

成信はやっぱり黙っていた。男はじっとようすをうかがい、ひと足そろっと前へ出た。

「ふてえ野郎だ、狸ねえりなんぞしやあがって、それとも何か計略でも考げえてやがるのか、へっ、こっちあな、表に三十人から待ってるんだぞ、ぴいとひとつ呼笛を吹きあよ、へっ、命知らずの野郎どもがだんびら物をひからしてとびこんで来るんだ、じたばたすると命あねえぞ」

「――面白いな、ひとつそれを吹いてみろ」

「なにょう、な、なんだと野郎」

「――その呼笛を吹いてみろと云うんだ」

含み笑いをしながら成信がそう云うと、男はうっと詰り、それから出刃庖丁をゆらゆらさせ、精いっぱい凄んで喚きたてた。