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りゅうけつせんにしへいく
流血船西へ行く
山本 周五郎
「少年少女譚海」博文館、1938(昭和13)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,026 字 · 19 页
人影なき血塗れ船
人影なき血塗れ船
「船長、至急無電報が入りました」
太平洋沿海の救護船、太平丸の船長室へ、元気に無電係の伊藤次郎青年が入って来た。
「この凪に難波船でも有るまい、何だ」
「流血船の報告です」
「え? ――又か※(感嘆符二つ、1-8-75)」
太平洋の鮫と異名を取った樫原太市船長の顔が、急にぴんと引緊まった。――伊藤青年は報告紙を見ながら、
「発信はアメリカの豪華船P・F号です、簡単に読みます。……本船は三月二日午前七時十分、東経百五十度、北緯二十度三分の海上に於て、三本帆檣の一漂流船あるを発見せり、依って直ちに船員を派して検分せしに、船内には全く人影無く、船室、甲板、歩廊等、悉く鮮血にまみれ居れり、恐らく大殺人惨劇の行われたるものと思わる。救助すべきもの無きに依り、本船は是を放置せしまま母港に向け進航せり」
「又か、――又か、くそっ!」
樫原船長は卓子を叩いて立上った。
この奇怪な「流血船」の話は、もう半年も前から伝わっていた。――太平洋のまん中に亡霊の如く漂っている三本帆檣の船、その中には全く人の姿無く、然も船内は到るところ生々しい鮮血にまみれていると……無気味な、血腥い話なのである。