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りゅうけつせんにしへいく

流血船西へ行く

山本 周五郎

「少年少女譚海」博文館、1938(昭和13)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,026 字 · 19 页

青空文庫

眼前に見る怪奇の船

「賭けに負けたのは認めるよ。それより川本、こんな夜の冒険は危い、朝になってからするように云って、早く皆を引揚げさせろ」

「なんだ、君は遠くにいて怯気づいているのか、大丈夫だよ。相手は……」

そこ迄云って、不意に川本の声が聞えなくなった。

「おい川本、どうしたんだ」

「川本、川本、……」

突然向うでガシャン! と硝子器でも壊れるような音がした。同時に川本の声で、

「う、海坊主が来た、あッ あ――ッ、血みどろの手が……助けて呉れ」

「どうしたんだ、川本ッ」

「殺されるッ、海坊主だ、助けて呉れッ」

ばりばりッと板の裂ける音と共に、ぎゃっという川本順吉の断末魔の悲鳴が聞えた。そして凡べてが森閑と鎮まりかえった。

伊藤次郎は水を浴びたように、慄然と居竦んだ。アラスカ漁夫の話――奴は船へ襲い掛って来ます。……という無気味な言葉が、まざまざと耳の底へ蘇えって来た。

「大変だ!」

伊藤青年は脱兎の如く無電室からとび出して行った。

眼前に見る怪奇の船

樫原船長も顔色を変えた。

川本の言葉から推すと、海坊主が浦島丸へ侵入して、川本を惨殺したとしか思えない。川本は判きり海坊主だと云った。