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りゅうけつせんにしへいく
流血船西へ行く
山本 周五郎
「少年少女譚海」博文館、1938(昭和13)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,026 字 · 19 页
わッ、みんな死んでいる!
「あ! ひどい油だ」
舷側にいた一人が叫んだ。
「船長、一面に重油が浮かんでいます」
「重油だって?」
船長が身を乗出した、――なる程、四辺の海面は見渡す限り重油で蔽われている。伊藤次郎も隅の方でそれを見た。
「浦島丸だ、浦島丸は此処で沈没したのだ」
彼は見る見る蒼白めてそう呟やき、眤と瞑目した。
わッ、みんな死んでいる!
お互いに位置を失わぬため、太平丸は絶えず霧笛を鳴らしていた。――ぼう、ぼう……という低い笛の音は、濃い霧の彼方から訴えるように咽ぶように淋しく響いて来る。場合が場合だけにその音色は、まるで地獄の呼声のようにさえ思われるのだった。
短艇は流血船の周囲をひと廻りした。そして右舷舷側に、半ば壊れた梯子があるのをみつけて艇を繋いだ。
「先任、君は艇に残れ、何か怪しい事があったら拳銃で合図するんだ」
「は、――」
「油断するなよ」
そう云って一人を短艇へ残し、船長は真先に梯子を登って行った。――甲板へ一歩踏出したとたんに、人々は思わず息詰るような光景を見た。甲板は眼の届く限り、ぬらぬらと生々しい鮮血にまみれている。死骸を引摺ったかと思われるところや、池のような血溜りさえ見られる。