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りゅうけつせんにしへいく
流血船西へ行く
山本 周五郎
「少年少女譚海」博文館、1938(昭和13)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,026 字 · 19 页
と喚き続けた。
短艇が太平丸の舷側へ着くなり、伊藤次郎は船長より先に飛移っていた。見よ、――其処には残留した船員たちの死体が転げている、あたり一面の鮮血だ。
「あッ 殺られた」
人々は恐怖の叫びをあげながら、思わず後へたじたじとなった。
「みんな四辺に注意しろ、怪しい者が見えたら構わずぶっ放すんだ」
船長は喚きながら死体の側へ跼んだ。
なんという無慙な殺し方であろう、みんな頭蓋骨を一撃で粉砕されている。震える手で次々と調べて行くうち一人だけ微かに息のある者がいた。そして船長が急いで抱き起すと、――彼は恐怖で剥出された眼を海の方へ向けながら、
「海……海から――来た、彼奴が……」
もつれる舌で、ようやくそこ迄云ったが、そのままがくりと息絶えて了った。
伊藤次郎はこのあいだに無電室へ駈けつけたが、哀れや其処でも助手が、……恐らく川本順吉もそうであったろうと思われるように、無電機にのめりかかったまま、頭を砕かれて絶命していた。
「海坊主だ、海坊主だ」
伊藤次郎は憑かれたように、慄然としながら外へ跳出した。
奇怪、奇怪、怪しい流血船と、船を襲う殺人怪魔、眼路の限り波また波の洋上に行われた、この亡霊の如き事件の謎は、果してどう解くべきであろうか? ――伊藤次郎は茫然として戻って来た。