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りょうしのむすめ
漁師の娘
徳冨 蘆花
「家庭雑誌」1897(明治30)年1月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,592 字 · 23 页
其の内万作は僂麻質斯が段々こうじて、果は床につくようになる。生計はますます困って来る。八月の中旬となった。或日万作が識人で同じ島の勘太郎という男が尋ねて来て、斯ういう話をした。其れは潮来一の豪家の子息某、何時かお光を見染め、是非妾にしたい、就いては支度金として五十円、外に万作夫婦には月々十円と網一具やろうとの話だ。万作は一々頷き勘太郎を返して、直ぐお光を呼んで斯々と話して見ると、お光は情なさそうにじっと爺の顔を見つめて居たが、頭を掉って外へ出てしまった。万作は腹を立てる。勘太郎は三日にあげず来て催促する。婆は中に居て万作には「無情い事をしなさんな」と諫める。お光には「爺もああではなかったが、のうお光ちょう、あの年でのうお光ちょう、それにあの病気でのう、お光ちょう、気にかけなさんなよ、のうお光ちょう」と慰める。お光は人の見る所でこそ泣きもせぬが、少し暇さえあればすぐ柳の根株に行って、小声に歌いながら、天外遥に筑波の双峯を眺めて思いに沈む。
其の内九月となった。月のはじめから暑いような寒いようないやな天気であったが、日を逐うて空の模様怪しゅうなって、月の中旬に入ると、それはそれは天の戸一時に破れたかと思うばかり大雨大風となって、それからというものは、毎日毎日降り明し降りくらし、降って降って降りぬく程降りつづける