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りょうしのむすめ

漁師の娘

徳冨 蘆花

「家庭雑誌」1897(明治30)年1月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,592 字 · 23 页

青空文庫

。「湖の水まさりけり五月雨」で、諸処方々の水はどんどん霞が浦に流れ込む。霞が浦の水は段々南に押し出して来る。浮島は其の正面に当るから、どうもたまらぬ。水は万作が家の戸口を越した。やがて床につかえる。樽を並べて戸板を敷いて居ても、もう其の内水はどんどん押して来て、家の内では堪え切れぬ。万作も少しは塩梅も宜いから、強めて起きて、親子三人大骨折して後の山にようよう雨露を凌ぐばかりの仮小屋を建てて其処に住んだ。斯様からだをつかったせいか、其晩から万作が腕は非常に痛み出して、少し熱さえ出て渇を覚ゆると見え、頻りに焼酎が飲みたい飲みたいとくりかえしていう。譫言のようにいう。焼酎! 此水に焼酎! 島には到底ない。一里半の水を押切って麻生まで行かなければない。お光は藁の上に坐って、爺の腕を静に摩りながら、熱に浮かされて赤みばしった爺の眼を見、其の白髪頭から其の皺だらけの額から大粒の汗の湧くを見、其の唇のいらいら乾くを見て居たが、そっと腕を置いて、そこにあった一升徳利をとって、外へ出た。

雨は已んで、空は星だらけだ。月も出て居る。下の方を見ると、吾家も半水に浸って、繋いだ舟は背戸の柳の幹の半に浮いて居る。