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りょうしのむすめ

漁師の娘

徳冨 蘆花

「家庭雑誌」1897(明治30)年1月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,592 字 · 23 页

青空文庫

歯が生え出すと、鯉鮒の肉をむしって、かけかかった歯に噛んでくくめる。「這えば立て、立てば歩めと親ごころ、吾身につもる老を忘れて」。万作夫婦老を忘れてお光を愛する。這う。立つ。歩む。独りで箸を持つ。それはそれは愛らしい。だがどうも変だ。万一唖じゃあるまいかと万作夫婦心配した位、口をきかない。其のかわりようく物を見る、ようく聴いて居る。極小さい時分から自在にかけた薬缶の湯気の立のぼるを不思議そうに見送る。蝶々の飛ぶのを不思議そうに眺める。花でも草でも摘んでやれば、唯もう何時までも見とれて居る。風、雨、鳥の音、何でも耳引立てて真から聞き惚れる。大きくなって舟に乗せると、不思議そうに山を見水を見て居たが、頓て楓のような手に水を掬ってはこぼし掬ってはこぼして、少しも恐れる様子がない。或時万作が何処から買って来たか、ガラスの球に金魚を入れたのをやると、お光は見て居たが、やがて汀に持ち出して水ながら湖にうつして仕舞って、洋々として泳いで行く金魚の影を見送って、手をたたいた。鳥を非常に愛して、よく諸鳥の鳴声を覚えて、雀や鴉を見ると、お光は直ぐ両手を羽の様にひろげて、舞う真似をする。