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りょうしのむすめ

漁師の娘

徳冨 蘆花

「家庭雑誌」1897(明治30)年1月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,592 字 · 23 页

青空文庫

水鳥の蘆辺を立って、遥に筑波の方に飛んで行くを見送っては、半時も一時間も、見えなくなっても、猶空を眺めて居る。

三つ四つの頃から、お光は口をきかぬかわり、よく歌った。如何にも清い、銀鈴の様な声をもって居る。内に居ても、外に居ても、遊んでも、必ず何か歌って居る。誰が教えたと云うでもなく、独りで歌う。其歌と云ったら、意味のある様なないようなものだが、如何にも美しい声で節面白う歌うので、聞く者は皆含笑む。また如何にも奇妙な言をいう。「おっかあ、あたい蝶々になりたいねえ。まんまたべないで、花を吸って飛んであるきたいよう」。「とっちゃん、あのけむけむはどうして上って行くの、天に行くの、あたいも行きたいねえ、よう、あたいをけむけむにしてよう」。また或冬万作が黐網で鴨をとって来て毛をひくのを見て、「あらとっちゃん、とっとの衣服をとってしまうの。とっとが寒い寒いって泣くわ」。また或時万作が鯉を漁って来て料理するのを見て居たが、其右の手にすがって「あらとっちゃん、いやいやあたいもうお魚たべるのはいや」。そして其可愛らしい手で鯉の鰭から流れる血汐を拭って、其落ちた鱗を一枚一枚はめにかかった。