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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页
「なるほどねえ」
加納は隣の男に話しかけた。
「あれは氷の割れる音だったんだな。一体ここはどこなんだろう」
「さあ」
相手は首をかしげた。
「えらく寒いとこだなあ」
徴用の客船で割れるぐらいだから、そんなに厚い氷ではない。しかし加納にとっては、凍った海を見るのは初めてで、衝動は大きかった。彼方の陸地には、異風の街があった。内地では感じたことがない、針でつつくような寒さを、加納は感じた。
順番を待って、次々艀で上陸する。そこは平地になっていて、軍の建物が立っている。兵舎ではない。バラック建ての細長い仮休憩所のようなのが、数十棟並んでいる。そこに入れられて軍装検査を受け、それが済むと豚汁と飯が配給された。
「その豚汁はうまかったねえ」
加納は艪で舟の動きを調節しながら言った。
「やたら寒いのに、豚汁は熱い。豚肉もたっぷり入っている。皆何杯もお替りをしましたよ」
「その港、どこだったんだね?」
「それが誰も教えちゃ呉れねえんですよ。何も意地悪しているわけじゃなく、一人前の兵隊と取り扱って呉れないんだ。豚扱いだね。しかし結局誰かが聞き出して来て、大沽だと判った」
「すると船は黄海を越えて行ったんだね?」