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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

やはり自然が苛烈で、そうなるんだね」

「じゃ衛生兵も暇だろう」

「そうだね。患者が一人いた。川辺という軍曹だったが――」

そんな隧道に一日中閉じこもっていると、だんだん欝屈して来る。女気が欲しくなる。川辺軍曹は衝動的と言おうか無茶な性格と言おうか、思い立つと我慢が出来ない性分で、白昼でも裸馬を駆って砂漠をつっ走り、後方の部落に私娼を買いに行く。白昼なので、敵にねらい討ちにされる危険が充分にあるし、実際狙撃されたこともある。弾丸は当らなかったが、私娼から悪い病気をもらって来た。彼等は私娼のことをショウトルピーと呼んでいた。

「ちぇっ。あのショウトルピーの奴!」

口惜しがっても、もう遅いのである。川辺軍曹がこの分遣隊唯一の患者になった。加納の一日の仕事は、この川辺の治療だけであった。

「ちょっと見には温良そうなやさ男だったがね、気性は烈しかった。やくざによくあるような型ですよ」

あの病気はなかなか癒りが遅い。まだペニシリンなどない時分である。川辺はじれた。人骨を粉にしたのをのむと卓効がある、という話をどこからか聞いて来て、それを実行しようとした。半年ほど前、敵の密偵をつかまえて、射殺して土に埋めた。