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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

移ってしまった。こんな話になると、川津はよくしゃべった。酔っているせいもあるが、税務事務所などに勤めると、そんな事情や経緯に通じて来るものらしい。一月三日の宴会は、何となくそんな具合で終了した。

長い冬がつづいて、栄介はしばらく幸太郎のことを忘れていた。忘れていたというより、ずっと思い出さなかった。だんだんあたたかくなって、ある春の日、幸太郎からハガキが来た。万年筆の筆跡で、差出人の名をしらべずとも、直ぐにそれと判った。うんざりしたような気持になりながら、彼はハガキを裏返した。

『只今大阪に参り居り候』

癖のある達筆で、そんな文句から始まっていた。学校時代の旧友の家に泊り、その案内で大阪や奈良を見物したことなどが書いてあった。前の手紙や賀状に返事がなかったことについては何の記述もなかった。栄介はいささかの安心とともに、当惑に似たものを感じた。その翌日、京都からハガキが来た。さらに二日後、名古屋から絵ハガキが来た。だんだん近くなって来る。

「どうしてあの爺さん、今頃になって、おれにばかりつきまとうんだろうな」

そう呟くと、当惑に似たものが急にいらだちに変って来て、彼は舌打ちをした。