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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

小さな玄関を出て、私鉄の駅に向う坂道を降りて行った。坂を降り切ったところに大きな黒牛がうずくまって、人だかりがしていた。近寄って見ると、荷台をつけたまま牛は横倒れになり、体躯全体であえぎながら、口から血の混ったよだれを垂らしていた。大きな蠅がしきりにそこらを飛び交っている。血よだれはあとからあとからしたたって、地面を汚した。

「もう長いことはないな」

それは人間の死よりもっと強く身近に〈死〉というものを栄介に感じさせた。彼は五分間ほど牛の動きをじっと観察し、そしてゆっくり歩き出した。時計を見ると、今から東京駅に行って、間に合うか間に合わないかの時刻であることが判った。電車を待って歩廊を行ったり来たりしながら、幸太郎が突然家に訪ねた時の気まずさと、こちらから駅に出迎えに行く気分の重さと、栄介はしきりに計りにかけていた。やがて電車が来た。

乗り込んでしばらくして、彼はやっと出迎えに行く決心をつけた。いつ襲って来るか知れない災厄をびくびくして待つよりも、きまった時刻に首の座に坐った方がまだましだ。彼は苦笑いとともに、そう考えた。

階段を登って、東京駅の歩廊に出た。