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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

幸太郎は本家の旦那だったからである。彼はふところ手をしたまま、見物したり指図したり批評するだけで、その他は何もしなかった。そのくせ最初に出来た餅は幸太郎に捧げられ、彼はそれを当然の如く食味して、

「これはつき方が足らん。腰が弱いぞ」

とか、

「うん。これならまあまあと言うところだ」

などと批評した。つまり彼はそう齢もとっていないくせに、大旦那ぶりたかったのである。長男であるが故に父祖の財産をひとり占めにして、そして旦那風を吹かすなんて、戦前もずっと昔だから出来ることで、今の時世ではとてもそう行かない。

幸太郎は家業をついでいたが、弟の福次郎はやっと二流か三流の専門学校を卒業して、県庁に勤めていた。借家ではあったが、門と玄関があり、狭い前庭と割に広い裏庭を持つ家に住んでいた。これは収入が多分にあったわけでなく、一般的に借家が安かったせいである。はしくれといえども役人だから、体面ということもあったのだろう。栄介らはその家で生れ、その家で育った。栄介が高等学校にいる頃、ある時福次郎は少し酔って述懐した。

「お前たち双子が生れた時、わしはほんとに苦労したぞ。双子となると、かかりが二倍になるんでな」