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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页
福次郎は生涯それを口に触れたがらなかったし、栄介もはばかって聞こうとしなかったので、詳細なことは判らない。今更調べる由もない。
竜介についての最後の記憶は、肺病院である。竜介は留置場で発病、というより病気を悪化させ、出て来て病院に入り、間もなく死んだ。栄介はその暗欝な病棟の光景は思い浮べるが、竜介の死貌に対面した記憶はない。おそらく病室に入らせてもらえなかったのだろう。病院の門を入る時、福次郎は、
「さあ。これからお前が長男だぞ」
と栄介に言った。
「しっかりやらなきゃあ」
栄介にと言うより、自分に言い聞かせるような口調であった。しかし栄介には、自分が長男になった、という実感は全然湧いて来なかった。
福次郎はこの時すでに県庁に辞表を出していた。それを栄介が知ったのは、まだ後のことである。息子が赤化したとあっては、役人の職にとどまることは出来ない。詰め腹を切らされたのだ。しかし福次郎の、
「しっかりやらなきゃあ」
という台辞には、暗さや哀しさはほとんど感じられなかった。それ故にこそその言葉は、今の栄介にとって、千鈞の重みを持ってのしかかって来る。
「葬式の時、お母さんは泣いたかね?」