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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

空気はよどんで動かないが、風景はことのほか鮮烈に栄介の眼に迫って来た。プラットホームの端に、駅長か駅員が育てたのだろう、ケシの花が群をなして咲いていた。二人は歩いてその前に立った。

「これ、何の花か、知っているか」

栄介は言った。

「ケシの花だ」

「知っているよ」

「これから阿片がとれるんだ」

あやふやな気持で、栄介は説明をした。

「阿片というのは、麻薬だよ。のんでいる中に、中毒になる」

ケシにもいろいろ種類はあるだろうし、またそのどの部分をどうすれば阿片がとれるのか、栄介は知らなかった。もったいぶって説明したのは、ただ汽車到着までの時間稼ぎに過ぎなかった。とかく別離のための汽車を待つのは、間が持てないものだ。

「そうかい」

城介はあまり興味を示さず、他の景色の方ばかりを眺めていた。彼方から汽笛の音が聞えて来た。

「兄貴。もし大学まで行けるようになったら、東京の大学にして呉れよな。おれも話し相手が欲しいから」

「うん」

栄介はうなずいた。

やがて汽車が到着した。小さい駅なので、停車時間も短い。城介は彼から顔をそむけるようにして、すたすたと乗り込んだ。城介が座席を確保するのを見届けた時、汽車はごとんと動き出した。