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ろうしつき

狼疾記

中島 敦

「南島譚」1942(昭和17)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,540 字 · 47 页

青空文庫

しかし、これはまた、何と、やり切れない人間喜劇ではないか。腔腸動物的喜劇? 三造は棚の上の小さなカメレオンの模型に目を外らしながら、ぼんやり、そんな言葉を考えた。

四

その夜M氏に誘われて、三造がおでん屋の暖簾をくぐったのは、考えて見ると、誠に不思議な出来事であった。第一、M氏が酒をたしなむという事も初耳だったし、殊に外へ飲みに出るなどちょっと想像も出来ないところで、それに三造を誘うに至っては全く意外だった。M氏にして見れば、細君についての詳しい話をするほどに親しくなった(と、そう彼は思っているに違いない。)三造に、何かの形で好意を示さなければならないように感じたに違いない。誰にも相手にされない男が、たまに他人から真面目に扱われたと考え得た喜びが、彼を駆って、おでんや行などという・彼としては破天荒な挙に出させたのであろう。M氏の誘に応じた三造の気持も、我ながら訳の判らぬものであった。持病の喘息のため酒はほとんど絶っているのだし、M氏のようなえたいの知れない人物と今まで真面目に話をしたこともなし、だからその晩M氏につき合ったのは、M氏ののろのろした薄気味の悪い・それでいて執拗な勧誘を断り切れなかったためというよりも、『名婦伝』