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げんかくさんぼう
玄鶴山房
一、二「中央公論 第四十二年第一号」1927(昭和2)年1月1日発行<br>三~六「中央公論 第四十二年第二号」1927(昭和2)年2月1日発行
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,434 字 · 25 页
のみならず彼女はいつの間にか彼女自身も重吉夫婦に嫉妬に近いものを感じていた。お鈴は彼女には「お嬢様」だった。重吉も――重吉は兎に角世間並みに出来上った男に違いなかった。が、彼女の軽蔑する一匹の雄にも違いなかった。こう云う彼等の幸福は彼女には殆ど不正だった。彼女はこの不正を矯める為に(!)重吉に馴れ馴れしい素振りを示した。それは或は重吉には何ともないものかも知れなかった。けれどもお鳥を苛立たせるには絶好の機会を与えるものだった。お鳥は膝頭も露わにしたまま、「重吉、お前はあたしの娘では――腰ぬけの娘では不足なのかい?」と毒々しい口をきいたりした。
しかしお鈴だけはその為に重吉を疑ったりはしないらしかった。いや、実際甲野にも気の毒に思っているらしかった。甲野はそこに不満を持ったばかりか、今更のように人の善いお鈴を軽蔑せずにはいられなかった。が、いつか重吉が彼女を避け出したのは愉快だった。のみならず彼女を避けているうちに反て彼女に男らしい好奇心を持ち出したのは愉快だった。彼は前には甲野がいる時でも、台所の側の風呂へはいる為に裸になることをかまわなかった。