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げんかくさんぼう

玄鶴山房

芥川 竜之介

一、二「中央公論 第四十二年第一号」1927(昭和2)年1月1日発行<br>三~六「中央公論 第四十二年第二号」1927(昭和2)年2月1日発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,434 字 · 25 页

青空文庫

二

「何だかな、まさか厳格と云う洒落でもあるまい。」

彼等は二人とも笑いながら、気軽にこの家の前を通って行った。そのあとには唯凍て切った道に彼等のどちらかが捨てて行った「ゴルデン・バット」の吸い殻が一本、かすかに青い一すじの煙を細ぼそと立てているばかりだった。………

二

重吉は玄鶴の婿になる前から或銀行へ勤めていた。従って家に帰って来るのはいつも電灯のともる頃だった。彼はこの数日以来、門の内へはいるが早いか、忽ち妙な臭気を感じた。それは老人には珍しい肺結核の床に就いている玄鶴の息の匂だった。が、勿論家の外にはそんな匂の出る筈はなかった。冬の外套の腋の下に折鞄を抱えた重吉は玄関前の踏み石を歩きながら、こういう彼の神経を怪まない訣には行かなかった。

玄鶴は「離れ」に床をとり、横になっていない時には夜着の山によりかかっていた。重吉は外套や帽子をとると、必ずこの「離れ」へ顔を出し、「唯今」とか「きょうは如何ですか」とか言葉をかけるのを常としていた。しかし「離れ」の閾の内へは滅多に足も入れたことはなかった。それは舅の肺結核に感染するのを怖れる為でもあり、又一つには息の匂を不快に思う為でもあった。