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げんかくさんぼう
玄鶴山房
一、二「中央公論 第四十二年第一号」1927(昭和2)年1月1日発行<br>三~六「中央公論 第四十二年第二号」1927(昭和2)年2月1日発行
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,434 字 · 25 页
四
と返事をした。お鈴ははっきりと彼女の背中にお芳の来ることを感じながら、雪のある庭に向った廊下をそわそわ「離れ」へ急いで行った。
「離れ」は明るい廊下から突然はいって来たお鈴の目には実際以上に薄暗かった。玄鶴は丁度起き直ったまま、甲野に新聞を読ませていた。が、お鈴の顔を見ると、いきなり「お芳か?」と声をかけた。それは妙に切迫した、詰問に近い嗄れ声だった。お鈴は襖側に佇んだなり、反射的に「ええ」と返事をした。それから、――誰も口を利かなかった。
「すぐにここへよこしますから。」
「うん。………お芳一人かい?」
「いいえ。………」
玄鶴は黙って頷いていた。
「じゃ甲野さん、ちょっとこちらへ。」
お鈴は甲野よりも一足先に小走りに廊下を急いで行った。丁度雪の残った棕櫚の葉の上には鶺鴒が一羽尾を振っていた。しかし彼女はそんなことよりも病人臭い「離れ」の中から何か気味の悪いものがついて来るように感じてならなかった。
四
お芳が泊りこむようになってから、一家の空気は目に見えて険悪になるばかりだった。それはまず武夫が文太郎をいじめることから始まっていた。文太郎は父の玄鶴よりも母のお芳に似た子供だった。