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しゅくず
現代日本文学館8 徳田秋声
徳田 秋声
徳田秋声『現代日本文学館8 徳田秋声』。同一底本的分册已合并为一书。收入:縮図、仮装人物。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 327,364 字 · 638 页
葉子はあわてて羽織を引っかけたまま、飛び出して行ったが、やがて帰って来ると、困惑した顔て支度をしはじめた。
「秋本さんの番頭さんが来たのよ。」
このごろになって、葉子がいろいろに手を廻して、彼を引き戻そうとしていることは、庸三にも解っていた。そうなることをも希望していた。しかしまた葉子はどうかすると、庸三の唆かしに乗ったふうにして、小河内の自宅へ電話をかけ、夫人と辞礼を取り交すこともあった。
「何だい、旦つくはお留守だ。」
葉子は悪戯そうに首を悚めながら、電話口を離れて来るのだった。
しかし何といっても秋本の方にまだしも脈がありそうに思えた。今秋本が彼女の動静を探らせに、わざわざ番頭を寄越したとなると、場合は葉子に不運であった。
やがて下宿の別室で、葉子は番頭に逢ったが、昨夜の彼女の居所を、すでに感づかれているようにも思えた。
「仕方ないからよそへ原稿書きに行っていたと言って胡麻化して、御馳走して帰したわ。」
忘れものの手提もあって、番頭を送り出すと、じきに舞い戻って来て庸三に報告するのだった。
「悪いところへやって来たもんだな。」
葉子は今起きたばかりの庸三の傍へ来て、空洞な笑い声を立てたが、悄然卓子に頬肱をついている姿も哀れにみえた。